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誕生会

139 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/10/30(木) 18:59:41

一昨日、姪が5歳の誕生日を迎えた。
毎年姪の誕生日には決まって実家近くの居酒屋で誕生会をしている。
そこは姪の誕生を一番心待ちにし、残念ながら姪をその腕に抱くことなく逝ってしまった俺の親父の行きつけの店だ。

親父はいまどき珍しいほどの職人気質を絵に描いたような古風な男だった。
無口で厳格で特に俺にとってはこわい父親だった。
俺たち兄妹が幼い頃、たまの休みに遊びに連れていってくれたデパートの屋上で
乗り物に乗った俺たちが「お父さん!」と手を振っても、
照れくさそうに口をへの字に曲げて不細工な笑顔を作るような、愛情表現の不得手な親父だった。

妹が産婦人科の医師からおめでたを告げられたその翌日、
酒の飲みすぎで体を壊していた親父は5年間断っていた酒を飲むために、
以前行きつけだった居酒屋に入ったらしい。
そこでいい加減酔って気分良くなった親父は帰り道、
あと家まで100メートルくらいというところで事故に遭い、
すぐに病院に運ばれたがそのまま他界した。
事故に遭って道路に横たわった親父は、
純綿のフリルのついたおくるみが入った、綺麗に包装された箱を大事そうにかかえていたそうだ。

親父の葬儀のとき、最後に会ったことを因果に感じてか居酒屋の大将が弔問してくれたので、
その数日後、俺はお礼がてら居酒屋へ初めて入った。
長い付き合いだけあって、大将は俺たちの知らない親父の一面をよく知っていた。
意外だったが、俺のことも自慢げによく話していたという。
何より大将の話の中で一番印象に残ったのは妹の体のことだった。
妹はかつて、卵子が通る卵管というところに問題があり、
産婦人科からも通常の妊娠はまず難しいだろうとの見解を示されていた。
その事実を知った父親は、俺たちの前では「まぁ、子供を産むことだけが人生じゃない。旦那と2人で幸せに生きていくってのも人生のひとつの在り方だろう。」
と半ばぶっきらぼうに言っていた。

141 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/10/30(木) 19:02:43.91 ID:SQ0Ys2Pm0
しかし、大将の前では違っていたと言う。
飲みすぎを気遣う大将の静止も聞かず酒をあおり、
「あの子が何をしたっていうんだ!俺の娘には親になる資格がないっていうのか!」とひどい荒れ様だったというのだ。
その後、長い不妊治療の末、妹がようやく妊娠できたことを知った親父は、
それでも俺たちの前では「良かったな。」と口をへの字にした不細工な笑顔で言った程度だった。

そして最期の夜。ずいぶん久しぶりに大将に会った親父は、すこぶるご機嫌だったらしい。
15分に一度おくるみの入った箱を目の前に突き出し、「こいつでくるんだ孫をもうすぐ抱っこしてやれるんだ」
と繰り返し言っては目じりを下げ、酒を飲んでいたようだ。
店を出るときに足元のおぼつかない親父に「だいじょうぶか?」と声をかけると、
「だいじょうぶだよ!俺はもうすぐおじいちゃんになるんだから!」
と理由ともつかないことを言っていたらしい。

俺は久しぶりに人前で泣いた。
別に『男は人前で涙を見せるもんじゃない』という親父の教えを頑なに守っていたわけではないのだが、
大将の話を聞いて本当に久しぶりに人前で泣いた。
本当に不器用だったんだなと思う。照れ屋だったのかもしれない。
俺も親父の愛情を読み取れるほど勘がいいわけでも器用でもなかった。

そして来月、俺もようやく親になる。親父のように愛情をたっぷりと注げる父親になりたい。
できればもっと上手くその愛情を示したいけど。

長文スマソ。その割りに泣けるのは俺だけだな・・・。