最後の一仕事
28 名前: C.N.:名無したん 投稿日: 2009/01/18(日) 14:48:51
私は、中学校入学ごろからコスプレをしだした。
おじいちゃんとおばあちゃんは、洋裁屋さんだった。
両親も共働きで帰りも遅いので、必然的に、
おじいちゃんとおばあちゃんのお店に入り浸ってた。
だから、いろんなものの作り方を教えてもらったり、作ってもらったりした。
おじいちゃんもおばあちゃんも、私のことをすごく可愛がってくれて、
コスプレ衣装を作りたいと言ったときにも、
「面白い服だねぇ。どれ、じいちゃんもがんばって見よう」と、
じいちゃん達は、どう考えても今まで作ったことがないだろう種類の服を、
私と一緒に作ってくれた。
おばあちゃんは昔、美容師をやっていたから、
髪型もキャラと同じにアレンジしてくれたり、化粧もしてくれた。
完成した時、おじいちゃんもおばあちゃんも、
「Oちゃん、お姫様だねぇおじいさん」
「Oちゃんはオラ達のお姫様だよ」
と、こっぱずかしくなるような喜び方をしてくれた。
10年ぐらいたつのに、今でも忘れない。
そのうち、おばあちゃんとおじいちゃんは
「今度はなに作ろうか?」と、言ってくれるようになった。
年のせいもあるし、大型店舗がそこに移ってくると言う理由で
おじいちゃんおばあちゃんは、店を畳んで暇になったからかもしれない。
「Oちゃんと一緒にお洋服を作って、
それをOちゃんが着てニコニコしてくれてるのが、じいちゃん達の生き甲斐だよ」
と、言ってくれた。
「何でそんなに上手なの?」と聞くと、じいちゃんは
「基本がわかっていればなんだってできるよ」と言った。
「基本がしっかりしていれば、応用もある程度効く。
だからOちゃん、基本は何事もしっかりとやるんだよ」
と、笑ってた。
コスプレ衣装も、ロリ服もゴスロリも、じいちゃんとばあちゃんは作ってくれる。
29 名前: C.N.:名無したん 投稿日: 2009/01/18(日) 14:49:27
ある時、鎧や武器とかを作りたくなった。
でも、じいちゃんとばあちゃんには作れなかった。
鎧を脱いだ服は、何とか自分で作れたけど…。
落ち込んでる私に、じいちゃんたちは「ごめんね」と言った。じいちゃん達は悪くない。
むしろ、悪かった所を、直してくれたりもしてくれて、衣装は完璧だった。
コスプレを通じて出来た友達との、初あわせだったから、
すごく楽しみにしてたから、しょんぼりしてた。
「ごめんね、鎧だけはできない」
って、じいちゃんすごく悲しそうだった。
ばあちゃんが後で話してくれたけど、じいちゃんは
ダンボールで作ったりと試行錯誤を続けてた。
それでも
「Oちゃんにこんなのを着せるわけにはいかない。
プロとしても、もっと良い物が作りたい」
と、それを秘密にしていたって。
そうして三人しょんぼりしてるうちに、
じいちゃんの弟が訪ねてきた。おじさんは看板屋さん。
おじさんが、「ライオンボード使えば良いじゃねーの。
うちにあるから好きなだけ持ってけー」と、言ってくれて、
その加工の仕方をじいちゃんと私に教えてくれた。
そのほかにも加工の仕方を二人で勉強して、以来、じいちゃんは何でも作れるようになった。
じいちゃんとばあちゃんの洋裁屋を再興させたくて、
高校も服飾学科だったし、専門学校もそっちに進んだ。
じいちゃんとばあちゃんはそれを喜んで、何十年も使ってるトルソーを、私にくれた。
「オラ達が死んだら、この道具はOちゃんに全部あげるよ」
と言ってくれた。
成人式の着物は、じいちゃんとばあちゃんが作ってくれた。
とてもきれいな振袖で、ちょっと覚えた「ゴシック」入ってるけど、
友達や周りの人からは「いいなー」って言われた。
「何円で売ってくれる?」とも言われたけど、売れないと断った。
30 名前: C.N.:名無したん投稿日: 2009/01/18(日) 14:49:58
私の成人式から三ヵ月後、じいちゃんの癌が発覚。余命一年だと宣告された。
「入院しますか?してください」と言われても、じいちゃんは
「一年?…十分、最後の一仕事ができる」
と言って、ウェディングドレスを縫ってくれた。
結婚する相手なんて居なかったけど、
完成したそれを着た時、じいちゃんとばあちゃんは
「思い残すことなんかないな」と頷きあって、嬉しそうに笑って泣いた。
それが良かったのか、何が良かったのかはわからないけど、
じいちゃんは余命一年と言われ、三年経った今でも元気。
お医者さんにも、不思議がられてる。
「あれ?オラ、死ぬんじゃなかったっけ?」
とよく言ってるけど、今でも元気にコスプレ衣装を作ってくれてる。
友人に「売ればいいのに!」と言われるけど、
「これは趣味だから」と言って、じいちゃんもばあちゃんも突っぱねてる。
もう少し、私の腕が上達したら、またどこかにお店を出そうねと約束してる。
今度、お金が入る予定なので、じいちゃんとばあちゃんと一緒に温泉旅行行ってきます。
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